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日本画と光5―独自の色と形で描いた江戸の絵師・伊藤若冲1

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伊藤若冲(1716年~1800年)は江戸時代に京都で活躍した絵師である。独創的な世界観を持つ作品を今に残し、その画風は写実と創造を巧みに融合させたもので、「奇想の画家」と呼ばれている。

京都の青物問屋の長男として生まれ、23才の時に父親を亡くし、家業を継ぐ。40才になった時に、弟に家業を譲り、兼ねてからの趣味であった絵の制作に専念する。狩野派の画法を学んだりしたが、ほとんど独学で絵を学び、様々な絵を独自の技法で描き、それまでの日本の絵にはなかった奇抜なモチーフや独特な画面構成による作品を残した。

その技法には、豊かな色の表現を可能とするために「裏彩色」や「桝目描き」、「筋目描き」と呼ばれるものがあり、それらを駆使した作品は精密さや幻想的な作風を持ち素晴らしいものである。

裏彩色――古くからある絹絵の技法で裏と表から同じ色を塗ることにより一層色を鮮やかにする。裏彩色の長所は表面から塗る絵具を厚くすることなく、複雑な色表現が行えることである。若冲は新たな技法として表と裏に別の色を塗り、様々な色を生み出した。

桝目描き―作品全体に1センチ四方の桝目を描き、その中に色を埋めて絵を完成させる技法。「群鶏図」という絵は実に8万6千個の桝目に色を塗ることにより仕上げていており、それらの作品は「江戸時代のデジタル画」と呼ばれている。

若冲は桝目に外側と内側の桝目を描き、それぞれ異なった反射度合いの絵具で描いている。そのため、光の当たり方で絵の色が変化する効果を出している。

筋目描き―特殊な紙(宣紙)に塗った墨が乾かないうちに次の墨を塗ると、その境が白い筋となって残る。当時の伝統と格式ある絵の描き方からは、邪道と思われていた技法だが、若冲はかまわずに鳥の羽、魚の鱗、花弁などに利用して描いた。

また、若冲は最高級の絵具や絹、紙などを使用して制作していたが、プルシアンブルーという当時希少な絵具も使用していた事が最近判明したという。プルシアンブルーがドイツから輸入されて江戸で珍重されるのは19世紀に入ってからで、若冲はその50年も前からその効果を知り、使用していたことになる。

彼の作品から受け取れるものは、豊かな経済力を礎に、理想の絵を完成させるために労力を惜しまず、あくなき追求をしながら制作をしていく独立独歩の孤高の絵師の姿である。

photo by 伊藤若冲 Ito Jakuchu

 

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