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日本画と光6―光による陰影を描いた精密画・伊藤若冲2

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代表作に「動植綵絵」(どうしょく さいえ)という動植物を描いた彩色画があり、その中に、「梅花皓月図」がある。皓皓(こうこう)と輝く満月を背景に、咲きほころぶ梅の花を描いたものである。

若冲は月の光を浴びて陰影のある梅の花を、変化をつけた形状と色彩で一輪一輪細部まで丁寧に描いている。江戸時代に多くの絵師は花の花びらを均一の色で描いていたが、若冲は花びらを花弁ごとに異なる色と複雑な濃淡で表し、月の光がうっすらと花弁を透き通っている様を見事に描いている。

これは表から絵具を塗ったもの、裏彩色を施したものなど技法を使い分けて表現していることによる。形も単純な繰り返しはせずに、まるで変奏曲のように変化していく形状である。これらデフォルメされた緻密な描写が、見る者にとって味わい深く、印象的な情景として迫ってくる。

フランスの印象派の画家たちが、光を描こうとしたのは19世紀半ばであり、若冲が「この絵を描いたのが18世紀半ばであることを考えると、若冲は印象派の画家より100年も前に光を意識して描こうとしていたことになる。

また、印象派の技法は下絵を描き、その上に油絵具を塗り重ねて修正をしながら制作していくのに比べ、若冲は下書きをせずに一度きりで描きあげるという方法で描き、完璧に仕上げていたのは驚嘆に値する。

若冲は「千年後の私の作品の価値を見抜いてくれる人が現れるが頼りである。絵の中で十分に己を表現しているので、言葉はいらない」という言葉を残している。その言葉通りに、最近になってX線撮影や可視・近赤外線同時照射撮影などにより、驚異的な技巧や技法について解明されて、作品の評価が高まっているのは興味深いことである。

 

ALGが携わった滋賀県のMIHO MUSEUM には2008年に見出された巨大な屏風「象鯨図屏風」が収蔵されている。また、生誕300年を迎えた今年、各地で若冲の展覧会が開かれている。

豊かな発想、とどまる所を知らない好奇心、常に新たな技法を試みる姿勢、により生まれた精密で幻想的な若冲の作品を一度ゆっくりと味わってみてはいかがであろうか。

photo by 伊藤若冲 Ito Jakuchu

 

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