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日本料理と光3―光のおもてなし

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詫び寂びという日本の心を味わい、自然を敬い、
命を戴くという心や、お互いをいたわり合う思いやりの心。
-「光」で伝えるおもてなしとは

日本料理の懐石料理は、お酒を楽しむ料理としての会席料理とは異なり、茶会でお茶を出す前に出されるお茶を美味しく飲むための軽い料理である。安土桃山時代に茶道と禅宗が結び付いて茶道が確立された後、千利休が禅の精神をさらに追求して確立した料理が懐石料理である。

懐石料理のおもてなしは料理のみではなく、客人のことを思いやって総合的な演出をしてもてなす。客人の年齢、性別、好み、など、また季節感を大事にして料理の器を選び、掛け軸、花などを選んで空間にあつらえ、細かい心配りをして最大の真心をこめてもてなすのだ。

千利休利休七則の一つに「夏は涼しく、冬暖かに」という心得がある。客人のことを考えて隅々にまで気を配り、客人に喜んで頂くことが肝要だという意味を込めた言葉であり、この精神は懐石料理の核心として連綿と引き継がれ、現在も息づいていると言える。繊細で深い奥行きのある懐石料理は提供者の和やかな雰囲気の中で心から楽しめるようにという気持ちが空間のしつらえや料理の内容などに表れ、料理全体を総合的に味わい楽しめるものとなっている。

その中で光によるおもてなしを考えるとLED照明により、細かな光環境設定が可能となり、様々な場面に応じた演出をすることが可能になっている。  季節や天候、時間、法事や慶事など会の目的、食事に集う人の年齢、性別、職種、などの要素に応じて心をこめた光のおもてなしができると考える。  基本的には懐石料理の美しい盛り付けを目で味わうためにほのかな陰影を生む間接照明が適している。  また特に高齢者の方に対しては視覚に優しい照明を提供することが大切だと考える。  60歳代で70%、70歳代で90%、80歳代でほとんどの人が白内障を何らか形で症状を持っていると言われている。  白内障の特徴である物がかすんで見えずらくなる、光がまぶしく感じられる、暗い所では物が見にくくなるという現象を考慮した光環境が望まれる。  20歳を基準とすると作業面などの明るさは40歳で約1.8倍、50歳で4.2倍、60歳で3.2倍の明るさが必要であると言われる。

しかしただ全体的に明るければよいのではなく、周囲からの光が混ざると対象物の色の彩度が下がり、見えにくくなる現象を考慮した明るさが必要である。  その問題に対応した照明として料理への照明を強くする反面、周囲の空間照明を控える照明にすると相対的に周辺光の散乱が減り、料理が見やすくなる。  高齢者には視覚への配慮をした光のおもてなしを加味することによって高齢者にも優しく思いやりのある懐石料理の総合的なおもてなしが実現できるのではないだろうか。

日本料理は身近な食材の持ち味を活かし、心を込めて料理することが美味しさにつながってきた。  日本料理が様々な変遷を経て、現在の多様な形が生まれ、今なお変化し続けるのは、時代が変化しても決して変わることがない、総合的なおもてなしの心が核心にあるからだろう。

そしておもてなしの心の底に流れるものは人と人との温かいコミュニケーションを育むという心だ。  日本料理は詫び寂びという日本の心を味わい、自然を敬い、命を戴くという心や、お互いをいたわり合う思いやりの心までも味わうことができる、世界に誇れる料理と言える。

 

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