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モダニズム建築—ル・ランシーの教会

Le Raincy

パリ郊外にあるル・ランシーに世界で初めて鉄筋コンクリートで建てられた教会ル・ランシー(正式名称ノートル・ダム・デュ・ランシー)教会がある。1923年に建てられ、鉄筋コンクリートによるモダニズム建築の幕開けを飾る記念碑的建造物とされている。
私はこの教会を学生時代に訪れた事がある。 パリの華やかな街とは異なる街。 そこにすっと現れるコンクリートの建物。 それがル・ランシーの教会だ。
建物の外見とは反対に、内部で垣間見たイメージとその感動は今も頭を離れない。 それは、今まで見てきたどの教会の中でも時代的にシンパシーと親近感を感じられる建築だった。 そしてそれ以上に、空間の内部で生まれる光の姿。細かな光の粒子が教会内部を、まるで軽やかに踊っているような光が音とリズムを生み出しているかのような光景だった。

設計者は1874年にベルギーの富裕な建設業者の家に生まれたオーギュスト・ペレ。ペレは、世界初のコンクリート建築を導入した建築家であり、この教会で古典的なシンメトリーやオーダーと鉄筋コンクリート構造の融合を成し遂げた。

このル・ランシーの教会が、通常の教会建設費の1/6という低予算で実現できたのは、シンプルな構造と当時画期的だった打ちっぱなしのコンクリートを採用したことによる。

内部は幅26メートル、奥行き56メートル。ゴシック教会の束柱のような円柱は、直径43センチ、高さ11メートル。この壮大な建築を支えるには非常に細い柱であり、空間を広く見せる効果を出している。

壁面一体はステンドグラスで覆われ、まるで光の幕に囲まれたような空間となっている。アーチ型のステンドグラスそれぞれの中央を飾る具象的な絵柄は、ナビ派のリーダー、モーリス・ドニの作で、第一次大戦のマルヌの戦いをテーマにしている。その他の幾何学模様のステンドグラスは、女性のステンドグラス作家マルグリット・ユレによるものであり、堂内の素晴らしい光のもととなっているものだ。

このステンドグラスの幾何学模様は、一面のステンドグラス を支えるため、ステンドグラスの上にもコンクリートの格子(グリッド)を配している。その格子からこぼれ落ちる光が美しい光の模様を床や柱に描き、教会内を荘厳で気高い美しさで包み込んでいる。色とりどりに光が舞う、明るい空間では、重くみえがちなコンクリート天井も軽く浮遊しているかのように見えてくる。左右の側面は、それぞれ5つの連続する壁面が連なる形となり、一つ一つに色彩の異なる十字が配されており、「光」の十字架に周りを取り囲まれているような印象を受ける。左右の壁の色は正面の内陣の青い光の壁面に向かって微妙に変化していくとこにより、豊かな光の表情を見せている。

幾何学模様のステンドグラスは、リズミカルで細かな光のハーモニーを奏で、堂内に荘厳でありながらモダンな印象を与えているのだ。

中世の礼拝堂さながらの神々しさを感じさせる素晴らしいこの教会は「鉄筋コンクリートサント・シャペル」とも呼ばれている。 まさにコンクリート造により実現した光に満ちあふれた美しい光の教会と言えるだろう。

 

photo by Kyoko Kirishima

 

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