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日本画と光3―光の浮世絵師・小林清親

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小林清親は明治の広重と言われ、浮世絵最後の絵師ともいわれている。

小林の浮世絵は日本の伝統的な美術と西洋の写真技術や油彩画など様々な分野を研究し作風に取り入れたもので、繊細な光の表現法で「光線画」と呼ばれ人気を博した。  作品は輪郭を用いずに描かれ、光と影、光のゆらぎ、色彩の変化をリアルにこまかに捉えた版画である。

この西洋画風を取り入れた新しい空間表現、水や光の描写と、郷愁を誘う独自の画風が人気を博し浮世絵版画に文明開化をもたらしたと評されている。

明治9年から明治14年にかけて光線画と呼ばれる一連の作品「東京名所図」を制作した。  当時は西洋文明の移入期でもあり人々に好感をもって迎えられた。

光線画という名称は、当時市中にガス灯が灯り始め、人々は光が線条をなすのに気づいたために光線という言葉が流行しつけられたといわれている。   彼の確立した影を描いて見る者に光を意識させる技法は従来の浮世絵になかった写実的な表現が用いられている。

文明開化によってガス灯などの新しい灯りに出会い、明るい光によって見える景色が変化した社会において、江戸の名残を絵の題材に用いながら新しい風景を美しく光と共に描き出した小林の浮世絵は、当時の人々の心にある古いものへの郷愁と新しいものへの憧れを絵に表したものとして大変な好評を得ていたのだろう。

残念ながら浮世絵はこのあと衰退していくが、小林の光線画の歴史資料としての価値と新しい世界への橋渡し時期の風景としての価値は高く評価されており、貴重な作品としてこれからも人々に愛され続けることだろう。

 

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