週一回照明デザイナーの視点で切り取った折々の風景や気になる言葉を少しずつ綴っていきます。ALG本サイトwww.alg.jp
     ALG

健康と光14―光と精神8

12

光と精神8―太陽光3 直射日光
 
 
古くから人類がその恩恵を信じ、礼賛して積極的に利用してきた太陽光。
今一度、太陽光の効用を認識し、生活に欠かせない要素としての太陽光を効果的に建築に取り入れて健康的で快適な生活に活かしていきたいものである。

今回は、空間における太陽光(直射日光)の利用について取り上げる。

空から降り注ぐ太陽光は、直射日光と天空光に分けられる。
直射日光は水蒸気や塵(ちり)などによって拡散・吸収されたり、雲に反射されたりすることなく、直接地面に到達するもので、天空光は直射日光以外の天空のあらゆる方向から地上に到達する光である。

直射日光は季節や天気、方位、時刻などにより変動する。さらに、直射日光には方向性があるため、それを受ける面の方向によっても照度は異なる。したがって、直射日光は、光源として用いるには、不確実であり、また強い影や、不快グレアの原因にもなり易いため、光源としての利用には工夫が必要である。

また、太陽光に含まれる紫外線による弊害が近年問題となっている。肌にシミやしわによる美容面の劣化や皮膚がんの発症の原因になることである。

しかし、一方、紫外線には人体に有益な効果があることを忘れてはいけない。有益な効果を上げると、殺菌消毒、ビタミンDの合成、血行や新陳代謝の促進、皮膚抵抗の昂進などである。

体内のビタミンD量が多いことにより生まれる様々な効果が分かっている。認知症のリスクの減少、がんの発症リスクの低下、死亡リスクが減少することによる長寿効果、免疫システムの働きを補助することによる疲労回復促進、などである。このビタミンDの生成に必要な日光浴を適度に行うことは健康的な生活に繋がる。一般的には1日15分間、週3~4日、肌の3~4割を露出して日焼け止めクリームを塗らずに日光浴をすることが推奨されている。

伝統的な日本の建築は、庇を用いて夏の高い高度から射す直射日光の照射を減少させる工夫をしてきた。冬は太陽高度が低く庇に遮られずに照射する直射日光を室内に導くことができ、室内と室外をつなぐ空間としての縁側ではのんびりと日光浴する「日向ぼっこ」をすることができた。

また、伝統的建具としての障子は視線を遮ることでプライバシーを守りながら太陽光を取り入れることができる建具である。障子は光の透過率が約40%から50%と言われている。障子から差し込む光は直射日光をやさしく拡散したやわらかな光であり、人の心を癒す効果がみられ、最近では病院の病室などにあえて障子を使って心やすらぐ空間づくりに役立てている例もみられる。

近年、地球の温暖化やオゾン層の破壊などの問題が発生し、エコロジーの観点から省エネが推奨され、人工照明に依存するだけでなく、太陽光を有効に利用する昼光照明の利用が注目されている。

オフィスなどでは窓からの直射日光の時間経過による空間の照度変化に応じて人工照明を制御するシステムやブラインド調整システムなどがあり、直射日光を効果的に利用しながら人工照明を調整して快適な光環境を実現するエコなシステムとして活用されている。

 

photo by Todd Wickersty

 

■関連記事
健康と光1―序章
健康と光2―歯と光1
健康と光3―歯と光2
健康と光4―目と光1
健康と光5―目と光2
健康と光6―目と光3
健康と光7―光と精神1
健康と光8―光と精神2
健康と光9―光と精神3
健康と光10―光と精神4
健康と光11―光と精神5
健康と光12―光と精神6
健康と光13―光と精神7
健康と光14―光と精神8
健康と光15―光と精神9
健康と光15―光と精神10